何年か前に漢点字についていろいろ調べる機会がありました。せっかくですので内容を公開情報として記録しておきます。
点字というのは、本来”仮名”しか表現することができません。下記のような6つの突起を指の触覚で読み取ることで識字するしくみになっています。
1 4
2 5
3 6
1マスで6つの点を使いますので、6ビット、すなわち64通りのパターンを表現することができます。そして、左上の3つの点(1, 2, 4)を使って母音を、左下の3つの点(3, 5, 6)を使って子音をあらわすのが原則です。つまり、構造的には梵字やハングルとよく似ています。
漢点字は、こうした点字を拡張して、漢字を直接表現できるようにしたものです。漢点字には2種類あり、ひとつは8つの点を用いる川上式漢点字であり、もうひとつは仮名と同じ6点だけを使う六点漢点字です。ここでは川上式漢点字だけを扱うことにします。
0 7
1 4
2 5
3 6
川上式漢点字(以降、単に漢点字と表記します)では、漢字は通常複数の文字を使って表現します。そして、漢字が始まるマスには0の点を、漢字が終わるマスには7の点を付加します。したがって、実際の中身は仮名と同じく1~6の6つの点で表現することになります。
仮名の点字では、文節ごとに分かち書きをするのがルールになっています。コンシューマーゲーム機のゲームなどでは、子供でも読めるように”ひらがな”と”カタカナ”だけでメッセージを出していることがよくありますが、そこでも分かち書きをしているはずです。厳密なことはともかく、早い話がそれと同じ要領だということです。
しかし、漢点字を使う場合には、分かち書きは原則として必要ありません。普通の漢字かな交じり文と同様、分かち書きなしでも文意をとらえることは十分可能だからです。ただし、小学校低学年の教科書同様、識字可能な漢点字の数が少ないユーザー向けには、分かち書きを併用する必要があるようです。
仮名の点字を使う場合には、何らかの方法で、漢字仮名交じり文の読みを生成し、かつ分かち書きを行った上で点訳しなければなりません。かつて私が関わっていた開発では、点字ディスプレイに出力することになります。しかし、漢点字の場合は、原則としてそのような処理は不要で、それぞれの文字を該当するパターンに置き換えるだけで済みます。いってみれば、文字コードの変換と同じようなものです。
入力に関しても、仮名の点字を使い、6点をあらわすキーによる入力を行う場合には、そこから漢字仮名交じり文を作るにはどうしても仮名漢字変換が必要になります。しかし、漢点字の8点をあらわす8つのキーで直接入力すれば、仮名漢字変換は不要になり、出力時と逆の変換を行うだけで済みます。
最大の問題は、各漢点字のパターンをあらわすテーブルをどうやって作るかです。『川上漢点字』という電話帳のような書籍があるのですが、JIS第1、第2水準に該当するすべての文字を手作業で入力するのは嫌です。予算があればそれでもよいのでしょうが、当然予算は乏しいですので、そんなことをやっている場合ではありません。どうしようか悩んでいたところ、データはあるところにはあるもので、やっと見つけることができました。
ロービジョン相談と光学というサイトに漢字の点字というページがあり、そこで自由に使えるデータが公開されていました。残念なことに主なデータはiswebライトのサービス終了によって喪失してしまっていますが、「ここ」と記されたリンクの中に、必要な漢点字のテキストデータがありました。これさえあればあとは楽勝です。
ただ、漢点字はそんなに普及しなかったようですし、こうやって重要な情報が失われてしまっていることを考えると、もはや死語のようになってしまったのかもしれませんね。